序章:⚡AMPという“速さの幻想”
2016〜2018年ごろ、Google検索の上位を「⚡AMP」ロゴが埋め尽くしていました。モバイルでページを開けば、瞬時に読み込まれる──。それは、ユーザー体験の革命であり、同時にウェブの自由を縛る試みでもありました。
なぜAMPが作られたのか
背景:2015年前後のモバイルWebは“重く、遅く、読みづらい”という三重苦でした。
- 3G回線が主流で通信が不安定
- 広告スクリプトがページをブロック
- JS/CSSが肥大化し、描画が遅延
Googleが提案した答えが AMP HTML です。
AMPは、HTMLを制限したサブセット言語として設計され、JavaScriptやCSSを厳しく制限する代わりに、Google CDNからキャッシュを配信することで「瞬時に表示される」体験を提供しました。
AMPとは「速さの民主化」であると同時に、「自由の制限」でもあった。
AMPの功罪:速さと引き換えに失ったもの
| 側面 | 内容 |
|---|---|
| ✅ 功績 | モバイルWebの高速化を世界的に加速させた。 |
| ✅ 功績 | Lazyload・プリロードなどの概念を普及。 |
| ⚠️ 問題 | Googleドメインで配信され、URLが自サイトでなくなる。 |
| ⚠️ 問題 | 広告や解析コードの制約が厳しく、収益性が低下。 |
| ⚠️ 問題 | テーマ崩壊・CSS制限でWordPress側の自由度が失われる。 |
つまり、AMPの「速さ」はGoogleのCDNによる“代理高速化”でした。ウェブの分散という本来の理念は、その間だけGoogleの手に委ねられたのです。
Core Web Vitals(CWV)への転換
2020年、Googleは新しい評価軸として Core Web Vitals を導入しました。ここで大きな方針転換が起こります。
「AMPじゃなくても速ければ評価する」──Google
これによりAMPは特別扱いを失い、ニュース枠でも必須条件から外れました。Cocoonテーマも2024年にAMP機能を完全削除(v2.7.0)し、WordPress側も「自力で速さを出す」時代に移行しています。
Core Web Vitals の3指標:
- LCP(Largest Contentful Paint)— 表示速度
- INP(Interaction to Next Paint)— 応答性
- CLS(Cumulative Layout Shift)— 安定性
KaTeX式で見る「速さの正体」
AMP時代の“代理的な速さ”ではなく、CWVでは次のように「構造的な速さ」が重視されます。
つまり、表示されるコンテンツ量を遅延時間で割った値──「中身を減らす」より「伝達を最適化する」方向へとシフトしたのです。
AMPが残したもの
- LazyLoad, Preload, Critical CSS など多くの技術が定着
- 構造の単純化や静的HTML化の流れを生んだ
- WordPressのブロックテーマやHeadless CMSにも影響
つまり、AMPの思想は消えたのではなく、形を変えてWeb標準に融合したのです。
未来:AMPのその先へ
2025年現在、AMPはニュース・メール・広告配信などの限定用途で細々と残っています。しかし主流は、Service WorkerやEdge CDNによる“ローカル高速化”へ完全に移行しました。
これからの速さ:HTTPヘッダ、画像形式(AVIF/WebP)、キャッシュ設計、構造化データ。
AMPが残したのは「制限による速さ」ではなく、「設計による速さ」でした。
結論:速さは、所有するものへ
かつてGoogleの手の中にあった“速さ”が、いま再び私たちの手に戻りました。AMPの終焉は、依存から自立への転換点です。
いま求められるのは、Googleに委ねるのではなく、自分のサーバー・自分のコードで速さを設計する力。AMPが蒔いた“速さの意識”の種は、CWVという新しい森に育っています。
— masaやん(hd0.biz)
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