🥈 第2回:Flash──Webを動かした夢と崩壊(Webの消えた技術たち )

webの仕組み

本シリーズ『Webの消えた技術たち』は、かつて一世を風靡したWeb技術の栄枯盛衰をたどり、現代のWeb設計に息づく思想を紐解く連載です。

序章:「Flashで作る時代」

1990年代後半、ブラウザは文字と静止画像の世界でした。そこに突如現れたのが、アニメーションと音、そしてインタラクティブな体験を可能にしたMacromedia Flashです。
「Webページが動く」──それは革命でした。

FlashからHTML5への進化を象徴する構図
図:Flash(ActionScript)からHTML5+Canvasへの進化

Flashの誕生:動きを与えた小さな奇跡

Flashは1996年、FutureSplash Animatorとして登場。のちにMacromediaが買収し、アニメーションとスクリプト(ActionScript)を統合したことで、一気にWebに“動き”が生まれました。

当時のWebではGIFアニメかJava Appletしか選択肢がなかった中で、Flashは軽快で滑らか。マウス操作やクリック、音声再生まで、Webページをまるで“アプリ”のように変えたのです。

Flashは「静的なWebを、体験するWebへ」変えた最初の技術だった。

黄金期:Webが動き出した時代

2000年代前半、FlashはWebの主役でした。広告、イントロアニメーション、ミニゲーム、教育コンテンツ──あらゆるサイトにFlashが使われていました。

  • ActionScript 2.0による高度なUI制御
  • ストリーミング再生(Flash Video)でYouTube黎明期を支える
  • ブラウザゲーム文化の礎を築く

Flashサイトは「重いけどすごい」と評され、“体験重視のWeb”という新たな価値観を広めました。

転落:モバイルとAppleの拒絶

転機は2007年。iPhoneの登場です。Appleは公式に「Flash非対応」を宣言しました。理由は明確──

  • バッテリーを消耗する
  • セキュリティ脆弱性が多い
  • タッチ操作に非対応

Steve Jobsは当時、「FlashはWebを遅くし、閉じ込める」とまで言い切りました。これが終焉の始まりでした。

「閉じた技術は、オープンなWebにはふさわしくない」──Steve Jobs(2010年)

HTML5とCanvasの登場:自由の帰還

2008年以降、<canvas><video><audio> などのHTML5要素が登場し、Flashでしかできなかった表現が標準化されていきます。

Flash → HTML5 移行の流れ:

  • アニメーション:Flash Timeline → CSS3 Animation / Web Animations API
  • 描画:Shape / Path → SVG / Canvas / WebGL
  • スクリプト:ActionScript → JavaScript(ES6)
  • 音声・動画:FLV → <audio> <video>

かつてのFlashの機能は、一つずつWeb標準に吸収されていきました。こうして、Flashは“特別な存在”から“必要のない存在”になっていきます。

Flashが現代に残したDNA

Flashの要素現代で継承された技術説明
タイムラインアニメーションCSS3 Animation / Web Animations API滑らかなモーション制御をWeb標準化
ベクター描画SVG / Canvas / WebGL拡大縮小しても劣化しない描画モデル
ActionScriptJavaScript (ES6+)ECMAScript系言語として思想が継承
音声・映像<audio> / <video> / Web Audio APIブラウザネイティブで再生可能
リッチUIReact / Vue / Svelte動的UIフレームワークが体験型Webを継承
Webゲーム文化WebAssembly / Unity WebGL「ブラウザで遊ぶ」体験を進化させた
デザインとコードの融合Figma / Lottie / Adobe XDFlash IDEの精神がUI設計ツールに息づく

これらは単なる置き換えではありません。Flashが残した思想──「Webを感じる体験へ」──が、形を変えてWeb標準の中に溶け込んだのです。

KaTeX式で見る「表現の力」

$$ \text{Experience} = \text{Interactivity} \times \text{Emotion} $$

Flashがもたらした“表現”は、インタラクティブ性(操作)と感情的訴求(デザイン)の掛け算でした。HTML5時代も、その方程式は変わっていません。

結論:Flashは消えず、溶けた

2020年12月、Adobe Flash Playerは正式に配布終了しました。しかしその瞬間、WebはFlashを超えていました。

Flashは、Webを“動かす”という使命を終え、いまはHTML5・CSS3・WebGLの中に息づいています。つまり──

Flashは消えたのではなく、Webそのものに溶けた。

その精神は、PWAやWebGPU、そしてこれからの3D・XR時代にも確実に受け継がれています。

— masaやん(hd0.biz)


次回予告:『Webの消えた技術たち #3』では、XHTML──厳格すぎた理想とHTML5の現実を特集します。
標準化の試みがなぜ人間に嫌われ、HTML5が勝利したのか。その背景にある「Webの民主主義」を探ります。

👉 公開予定:2025年12月上旬

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