🥉 第3回:XHTML──厳格すぎた理想とHTML5の現実(Webの消えた技術たち )

webの仕組み

本シリーズ『Webの消えた技術たち』は、かつて一世を風靡したWeb技術の栄枯盛衰をたどり、現代のWeb設計に息づく思想を紐解く連載です。

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序章:正しいWebを作ろうとした時代

1990年代末、HTMLは“曖昧さ”に満ちていました。閉じ忘れタグ、属性の大文字小文字混在、ブラウザごとの独自解釈……。
その混沌に秩序をもたらそうとしたのがXHTML 1.0(2000年)
“XMLの厳格さでWebを正す”という理想から生まれました。

XHTMLからHTML5への進化を象徴する構図
図:理想(XHTML)から現実(HTML5)へ──寛容な仕様への回帰

第1章:HTMLをXML化するという理想

  • XML準拠:閉じタグ必須、小文字属性、引用符必須
  • MIMEタイプ:application/xhtml+xml を正しく返すべき
  • 文法エラーは“即死”:1か所の誤りでページ全体がレンダリング停止
<!-- XHTMLの例(厳格) -->
<p class="msg">Hello, <strong>world!</strong></p>

欠けたタグ1つで真っ白──それがXHTMLの世界。

第2章:現実との乖離

構文エラー=ゼロトレランス。
一般ユーザーもCMSも“完璧な構文”を常に維持するのは困難でした。
さらに当時のブラウザ(特にIE系)は application/xhtml+xml での表示に難があり、互換性問題が多発。

結果として、厳しすぎて使われない規格へ。現実のWeb制作現場では、寛容なHTMLが選ばれ続けました。

第3章:HTML5──寛容さへの回帰

2008年、WHATWG(Apple/Mozilla/Operaら実装者コミュニティ)が推進するHTML5が登場。
HTML5は「壊れたHTMLもどう解釈して表示するか」を仕様側で定義し、寛容さを標準化しました。

HTML5の方針:

  • 実装主導(現場の現実)を尊重
  • パーサ仕様で“自動修正”の挙動を標準化
  • セマンティクス(<article> <header> など)を拡充

第4章:W3CとWHATWG──主導権の移譲

XHTMLはW3C主導、HTML5はWHATWG主導。
“理想の標準”から“実装の標準”へ重心が移り、2019年には両者が統合協定を結びHTML Living Standardとして一本化されました。

標準は理想を守るものではなく、現実を整えるものになった。

第5章:XHTMLが現代に残したもの(DNA)

XHTMLの思想現代に残る形説明
厳密な構文HTML5 Parserエラー時の修正ルールを明文化し、互換性を確保
名前空間SVG / MathML の統合XML的拡張性を維持しつつHTMLに共存
セマンティクス<article> <header> 等構造化と可読性を高め、SEOにも寄与
自己閉じタグ文化<img /> <meta />一部の書法はそのまま許容
国際化の意識UTF-8標準化文字化け問題の抜本的解決に寄与

KaTeX式で見る「正しさ×使いやすさ」

$$ \text{Usability} = \frac{\text{Correctness}}{\text{Strictness}} $$

“正しすぎる”仕様は使いにくい。XHTMLはその教訓を残し、HTML5は正しさと寛容さのバランスを取り戻しました。

結論:理想は滅びず、現実に溶けた

XHTMLは淘汰されましたが、理念はHTML5の骨格として息づいています。
完璧さよりも互換性ある正しさ。それが現在のWeb標準の哲学です。

理想は捨てない。ただし、現実に合わせて前へ進む。

— masaやん(hd0.biz)


次回予告:『Webの消えた技術たち #4』では、Google+──中央集権型SNSの終焉を特集。検索・YouTubeとの“強制統合”がなぜ支持されなかったのかを解説します。

👉 公開予定:2026年1月上旬

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