本シリーズ『Webの消えた技術たち』は、かつて一世を風靡したWeb技術やサービスの栄枯盛衰をたどり、現代のWeb設計に息づく思想を紐解く連載です。
序章:GoogleがSNSを支配しようとした日
2011年、GoogleはFacebookに真っ向から挑戦しました。
その名もGoogle+。 「検索とSNSを融合する」壮大な構想のもと、Googleアカウントと完全連携したSNSが誕生しました。
当時は「Facebook疲れ」が始まり、Googleが持つ検索エンジン・YouTube・Gmailなどとの連携が強みとされました。 誰もがこう思っていたのです──「これは勝つかもしれない」と。
第1章:Google+の理念──“統合”による新しいつながり
Google+が掲げたコンセプトは、単なるSNSではありませんでした。
- サークル機能: 共有範囲を友人・知人・公開など柔軟に設定可能。
- ハングアウト: ビデオ通話とチャットを統合。
- +1ボタン: Web全体の評価をGoogleアカウントに結びつける。
つまりGoogle+は、検索・動画・メールなどバラバラなGoogleサービスを“ソーシャルグラフ”でつなぐ試みだったのです。
「あなたの世界(Your world)をGoogleで完全に構築する」──Google+
第2章:強制統合の反発
しかし、この“完全統合”こそが失敗の始まりでした。
- YouTubeコメント欄がGoogle+アカウント必須に。
- Googleアカウント名=実名制へ変更。
- Gmailや写真管理も自動的に+へ結合。
結果、多くのユーザーが「SNSを使うためにGoogleサービスを使わされている」と感じ、反発が広がりました。
自由より“統合”を優先した結果、ユーザーの信頼を失った。
第3章:静かなる終焉
2015年以降、利用者は減少。 2019年、Googleは公式にGoogle+の個人向けサービス終了を発表しました。 理由のひとつは、APIの脆弱性(ユーザーデータ漏洩)でした。
“We failed to meet users’ expectations.”(ユーザーの期待に応えられなかった)──Google公式発表より
かつて「Facebookキラー」と呼ばれたSNSは、わずか8年で姿を消しました。
第4章:Google+が残したDNA
| Google+の要素 | 現代に継承された形 | 説明 |
|---|---|---|
| サークル共有 | Twitterリスト / Mastodonの公開範囲 | “誰に見せるか”の概念を一般化 |
| +1ボタン | いいね / Boost / Repost | ポジティブリアクション文化の定着 |
| ハングアウト | Google Meet / Discord / Spaces | リアルタイム通話文化の発展 |
| ストリーム構造 | Fediverse / ActivityPub | 分散型SNSが構造を継承 |
| ソーシャル検索 | Google Discover / AI推薦 | “人の関心”を検索結果に反映 |
KaTeX式で見る「SNSの方程式」
中央集権が強いほど“制御(Control)”が増し、信頼(Trust)は減る。 Google+はその方程式を体現した存在でした。 そして現代では、分散型SNS(Fediverse)がその逆を歩んでいます。
第5章:中央集権の終焉、分散の夜明け
Google+の崩壊以降、Web世界では“分散化”がキーワードになりました。
- Mastodon / Misskey / Bluesky: 個別サーバーによる連合型SNS
- ActivityPub: 共通プロトコルでSNSを横断
- WebFinger: ユーザー識別を分散的に管理
中央の巨大サーバーにすべてを預けるのではなく、信頼できるサーバーを自分で選ぶ時代。 これは、Google+が描いた“全統合型SNS”の真逆の思想です。
結論:閉じた帝国の果てに
Google+は「すべてをつなげる」ことを目指しました。 しかし人々は、“すべてを支配されない自由”を選びました。
統合の先に自由はなかった。 分散の中に信頼が生まれた。
Google+が去ったあと、Webは再び多様性を取り戻しつつあります。 それはまるで、巨大な惑星が崩壊して星々が自立した銀河のように──。
— masaやん(hd0.biz)
次回予告:『Webの消えた技術たち #5』では、RSSとGoogle Reader──“情報を取りに行く”時代の終焉を特集。
DiscoverやAI推薦が主流になった現代において、“自分で選ぶ情報”の価値を振り返ります。
👉 公開予定:2026年2月下旬
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